「退職給付制度」とは何を指すのか。退職一時金と企業年金(DB・DC)と共済制度はどう違うのか。この記事では、退職給付制度の全体像を図表で整理します。制度ごとの細かい話に入る前の、全体の地図にあたる記事です。
この記事で分かること
- 「退職金」と「企業年金」の関係。「退職給付制度」という言葉の意味
- 会社はなぜ退職給付を用意するのか。そして退職給付が会社の「約束」であること
- 退職一時金・DB・DCでお金の流れがどう違うか。「給付が決まっている制度」と「掛金が決まっている制度」の違い
- 日本の年金の3階建てと、退職給付制度の位置
1. 退職給付制度とは ―「退職金」と「企業年金」をひとつの言葉で
退職金は、退職したときに会社から受け取るお金です。これは誰でもイメージできます。一方、企業年金と聞くとどうでしょうか。「会社が年金を出しているらしいが、国の年金とどう違うのか」と、ぼんやりしている方が多いのではないでしょうか。
企業年金とは、会社が信託銀行や生命保険会社などの社外にお金を積み立てておき、従業員が退職したあとに、そこから年金または一時金で受け取る仕組みです。退職金を「社内に置いておく」のではなく「社外に計画的に準備する」ための器、と考えると分かりやすいでしょう。
そして、退職一時金と企業年金をまとめて呼ぶ言葉が退職給付です。もともとは会計基準の用語ですが、この記事では「退職一時金+企業年金+共済制度」をあわせて「退職給付制度」と呼びます。

企業年金・共済の代表が、確定給付企業年金(DB)、企業型確定拠出年金(DC)、そして中小企業向けの中小企業退職金共済(中退共)です。この3つの違いは第3節・第4節で説明します。
なお、iDeCo(個人型確定拠出年金)は、個人が自分で加入する制度で、会社の退職給付制度ではありません。ただし企業型DCとの併用ルールなどで会社の制度と関わりがあり、従業員から「うちの会社でもiDeCoに入れるのか」と聞かれることも多い制度です(別の記事で扱います)。
最初に、この分野でよく出てくる言葉を、かみ砕いた言い換えとセットで押さえておきましょう。
| 用語 | かみ砕いた言い換え |
|---|---|
| 退職一時金 | 退職時に会社がまとめて払う退職金。就業規則・退職金規程で額の決め方を定める |
| 企業年金 | 会社が社外に積み立てて、退職後に年金や一時金で払う仕組み。DBとDCがある |
| 確定給付企業年金(DB) | 「いくら払うか」を会社が約束する企業年金。運用は会社側の責任 |
| 企業型確定拠出年金(DC) | 「いくら掛金を出すか」だけ会社が約束する企業年金。運用は従業員本人が行う |
| 中退共(中小企業退職金共済) | 国の共済制度。会社が掛金を払い、退職時は共済から従業員に直接退職金が支払われる |
| iDeCo | 個人が自分で入る確定拠出年金。会社の制度ではない |
| 規程/規約 | 「退職金規程」は会社が定める社内ルール。「年金規約」はDB・DCの制度内容を定め、国(厚生局)の承認(基金型DBは認可)を受けた文書 |
2. 会社はなぜ退職給付を用意するのか ―そして「約束」であること
日本には、会社に退職金の支給を義務づける法律はありません。それでも多くの会社が退職給付を用意しているのは、主に次の3つの理由からです。

ここで、最初に理解しておくべき大事な性格があります。それは、退職給付は会社の「約束」だということです。
就業規則や退職金規程に「勤続○年で○万円」と書いた瞬間、それは従業員との労働条件の一部になり、会社には支払う義務が生じます。企業年金の場合も、年金規約という形で約束が文書化されています。ただし、何を約束するかは制度によって違います。退職一時金やDBでは「将来いくら払うか」を、企業型DCや中退共では「掛金をいくら出すか」を約束します(第4節)。いずれにしても約束である以上、次のような特徴が出てきます。
- 勝手に減らせない。 退職金の減額は労働条件の不利益変更にあたり、従業員の合意や合理性が厳しく問われます。DBの給付減額にも法律上の要件があります。
- 決算に影響する。 退職一時金やDBで将来払うと約束したお金は、会社の「債務」です。退職給付会計というルールで、その債務を(DBでは社外に積み立てた資産と差し引きして)決算書に反映します。中小企業には簡単な計算方法も認められています。企業型DCや中退共では、払うべき掛金がその期の費用になります。
- 手続きが法律で決まっている。 制度の導入や変更には、制度や変更の内容に応じて、労働組合や従業員代表の同意(労使合意)や意見聴取、行政の承認・認可や届出が必要です。
「退職金は会社が好意で出しているもの」ではなく「会社が負っている義務」。この視点を持つと、なぜ制度を正確に運営しなければならないのかが腑に落ちます。
どれくらいの会社に退職給付制度があるのか
厚生労働省の調査によると、常用労働者30人以上の企業のうち、退職給付制度がある企業は74.9%です。企業規模が大きいほど割合は高く、1,000人以上の企業では9割を超えます。一方で30〜99人の企業でも7割の会社に制度があります。

出典:厚生労働省「令和5年就労条件総合調査」(常用労働者30人以上の企業)
制度がある企業のうち、約7割は「退職一時金制度のみ」です。企業年金(退職年金制度)を持つ会社は、単独か併用かを合わせて約3割。つまり多くの会社にとって退職給付制度の中心はいまも退職一時金であり、企業年金はそれに上乗せしたり、その一部を社外で準備したりする位置づけになっています。
▶ まず確認:自社の制度はどれ?
次の書類を集めれば、自社の退職給付制度の全体像が分かります。
- 就業規則の「退職金」の条項と、退職金規程
- 確定給付企業年金規約・企業型年金規約(あればDB・DCを実施している)
- 中退共・特退共(特定退職金共済。商工会議所などが運営する退職金共済)の加入証書や掛金の請求書
- 運営管理機関・受託機関(信託銀行・生命保険会社)から届いている報告書や案内
「退職金規程だけ」という会社も、「規程+DC」「DB+DC」「中退共だけ」という会社もあります。組み合わせを知ることがすべての出発点です。
3. 退職一時金・DB・DC ―お金の流れが違う
退職給付制度を理解するうえで最初の分かれ道は、お金がいつ、どこに置かれるかです。

退職一時金は後払い型です。在職中、退職金の額は規程で決まっていきますが、そのための現金を会社が別に用意しているとは限りません。帳簿上は「引当金」として計上していても、実際の現金は事業に使われているのが普通です。従業員が退職した時点で、会社はまとまった現金を用意して支払います。退職者が重なる年は資金繰りに響きますし、万一会社が倒産すれば退職金が払われないリスクもあります。
DBは、お金を社外に積み立てつつ、給付額を約束する制度です。会社は毎月の掛金を信託銀行や生命保険会社などに積み立て、会社が委託した機関が運用します。従業員が受け取る額は規約で決まっているので、運用が予定より悪くて積立金が足りなければ、会社が掛金を追加して埋めます。
企業型DCは前払い型です。会社は毎月、決まった掛金を従業員ごとの社外の口座に払い込みます。払った時点で会社の負担は確定し、それ以降のお金は従業員本人の資産として、本人が運用します(勤続3年未満で退職した人の分を会社に返還させる定めを規約に置ける、という例外はあります)。受け取りは原則60歳以降で、途中で引き出すことはできません。
4. 「給付が決まっている」か「掛金が決まっている」か ―誰がリスクを負うか
二つ目の分かれ道は、先に決まっているのが「給付」なのか「掛金」なのかです。これが、DBとDCという名前の由来でもあります。

確定給付型(退職一時金、DB)は、給付額が先に決まっています。社外で運用した結果が予定より悪くても、約束した給付を会社の都合で勝手に減らすことはできないので、足りない分は会社が穴埋めします。従業員にとっては受け取る額が読めて安心ですが、会社にとっては将来の負担が読めないというリスクがあります。なお、DBの中には、あらかじめ決めた掛金で賄えないほど財政が悪化したときに給付額を調整する「リスク分担型企業年金」という形もあり、その場合は運用などのリスクの一部を従業員も負います。
確定拠出型(企業型DC)は、掛金が先に決まっています。会社は決まった掛金を払えば追加の負担はありません。運用の結果は従業員が受け取る額に反映されるので、リスクは従業員本人が負います。
中退共は、会社の負担は掛金で確定し、退職金は法律で定まる基本退職金に運用しだいの上乗せがつく制度です。会社から見れば、決まった掛金を払えばそれ以上の負担はなく、その点では確定拠出型と同じです(会計でも確定拠出制度として扱います)。一方、従業員が自分で運用するわけではありません。退職金の額は、掛金月額と掛金を納めた月数に応じて法律で定められた額(基本退職金)が基本で、共済の運用が好調なときはそれに上乗せ(付加退職金)がつきます。運用が不調でも減るのは上乗せ分で、基本退職金は減りません。
「会社がリスクを負うか、従業員が負うか」。この一点が、DBとDCの違いのほぼすべてです。近年、DBからDCへ移行する会社が多いのは、会社側が将来の負担の変動を避けたいからです。一方で、DCでは従業員の運用しだいで老後の受取額が変わるため、会社には投資教育を行う責務が課されています。
| 退職一時金 | 確定給付企業年金(DB) | 企業型DC | 中退共 | |
|---|---|---|---|---|
| 先に決まるもの | 給付額 | 給付額 | 掛金 | 掛金(退職金の基本額も掛金月額と納付月数に応じて国が定める) |
| お金の置き場所 | 社内 | 社外(信託銀行・生保など) | 社外(本人ごとの口座) | 社外(共済) |
| 運用するのは | ―(会社の事業資金) | 会社が委託した運用機関 | 従業員本人 | 共済(勤労者退職金共済機構) |
| 運用が悪かったら | 会社が現金を用意 | 会社が掛金を追加 | 本人の受取額が減る | 上乗せ(付加退職金)が減る・つかない。基本退職金は減らない(会社の追加負担なし) |
| 受け取り時期 | 退職時 | 退職時または年金として | 原則60歳以降 | 退職時 |
| 会社の決算への影響 | 債務として計上 | 債務として計上 | 掛金が費用になるだけ | 掛金が費用になるだけ |
| 主な対象 | 全規模 | 中堅〜大企業が多い | 全規模 | 中小企業(加入要件あり) |
5. 日本の年金は3階建て ―退職給付制度は「3階」にある
ここで視野を少し広げて、国の年金との関係を見ておきましょう。日本の年金はよく「3階建て」と説明されます。

出典:信託協会・生命保険協会・JA共済連「企業年金(確定給付型)の受託概況」、運営管理機関連絡協議会ほか「確定拠出年金(企業型)の統計概況」(速報値)、国民年金基金連合会「iDeCoの加入者数等について」(いずれも2026年3月末)
1階の国民年金と2階の厚生年金が公的年金です。会社員は厚生年金に加入することで1階の国民年金にも加入したことになり、保険料(厚生年金保険料)は会社と本人が半分ずつ負担します(本人分は会社が給与から天引きします)。その上に乗る3階が、会社が任意で用意する退職給付制度(企業年金・退職一時金)です。「年金の3階」は本来は企業年金を指す言い方ですが、退職一時金や中退共も公的年金に上乗せする老後資金の役割を持つので、この記事ではまとめて3階に置いています。さらに、個人が自分で用意する備え(iDeCo、個人年金保険、NISAなど)が横に並びます。
2026年3月末時点(速報値)で、企業型DCの加入者は約893万人、DBの加入者は約885万人、iDeCoの加入者は約393万人です。企業型DCの加入者数はこの時点で初めてDBを上回りました。企業型DCは毎年加入者が増え続けており、会社員の老後資金づくりの中心的な制度になりつつあります。
公的年金だけでは老後の生活費が足りないと言われるなか、3階部分をどう用意するかは、会社にとっても従業員にとっても重要度が上がっています。3階建ての詳しい話は別の記事で扱います。
まとめ
- 退職給付制度=退職一時金+企業年金(DB・DC)+共済(中退共など)。iDeCoは個人の制度。
- 退職給付は会社の「約束」。一時金・DBでは将来の給付額を、DC・中退共では掛金を約束する。勝手に減らせず、決算にも影響し、手続きは法律で決まっている。
- 退職一時金は後払い、DCは前払い。DBはお金を社外に置きつつ給付を約束する。
- 給付が決まっている制度(一時金・DB)では会社がリスクを負い、掛金が決まっている制度(DC)では従業員がリスクを負う。中退共は、会社の負担は掛金で確定し、退職金は法律で定まる基本退職金に運用しだいの上乗せ(付加退職金)がつく。
- 退職給付制度は年金の3階部分。公的年金の上に、会社が任意で用意する。
出典・参考
- 厚生労働省「令和5年就労条件総合調査 結果の概況」(概況PDF)― 退職給付制度がある企業割合、制度形態別割合
- 信託協会・生命保険協会・JA共済連「企業年金(確定給付型)の受託概況」(令和8年3月末現在)― DBの制度数・加入者数
- 運営管理機関連絡協議会ほか「確定拠出年金(企業型)の統計概況(令和8年3月末現在)」(速報値。厚生労働省「確定拠出年金制度」ページも参照)― 企業型DC加入者数・規約数・資産額
- 国民年金基金連合会 iDeCo公式サイト「業務状況(加入者数等について)」― iDeCo加入者数(2026年3月末)
本記事は制度の概要を分かりやすく説明することを目的としており、個別の制度の取扱いは各社の規約・規程や、運営管理機関・専門家にご確認ください。
退職給付の基礎 記事一覧
退職給付制度の基礎を扱う記事です。順番に関係なく、必要なところから読めるように書いています。
| 分野 | 記事 |
|---|---|
| 全体像 | 退職給付制度とは何か(この記事)/日本の年金は3階建て/退職給付制度の種類マップ/DBとDCの違い/企業年金の歴史/退職金制度の構成を読み解く:内枠と外枠 |
| 企業型DC 制度の基本 | 企業型DCの仕組み/企業型DCの登場人物/企業型DCの導入手続き(準備中)/規約変更の手続き(準備中)/制度の見直しと終了(準備中)/令和7年改正で企業型DCはどう変わるか(準備中)/DC制度の歩み |
| 企業型DC 加入者 | 加入者の範囲/入社・退社のときのDC事務(準備中)/休職・育休のときの拠出中断/勤続3年未満で退職したら:事業主返還 |
| 企業型DC 掛金 | 事業主掛金の決め方と納付(準備中)/マッチング拠出(準備中)/拠出限度額(準備中)/選択制DC(準備中)/DBと併用する会社の拠出限度額:他制度掛金相当額(準備中) |
| 企業型DC 運用 | 運用商品の選定と提示(準備中)/指定運用方法(準備中)/投資教育(準備中) |
| 企業型DC 給付・移換 | 老齢給付金(準備中)/障害給付金・死亡一時金・脱退一時金(準備中)/退職者の資産はどうなる:ポータビリティと自動移換(準備中)/iDeCoと企業型DCの関係(準備中) |
| 企業型DC 事業主の責務 | 事業主の行為準則(準備中)/運営管理機関の定期評価(準備中) |
| DB 制度の基本 | DBの仕組み(準備中)/規約型と基金型(準備中)/リスク分担型企業年金(準備中)/DBの登場人物(準備中)/DBの加入者(準備中)/DBの年間事務(準備中) |
| DB 給付 | DBの給付の種類(準備中)/DBの給付算定式(準備中)/DBの年金と一時金(準備中) |
| DB 掛金と財政 | DBの掛金の種類(準備中)/財政再計算(準備中)/財政検証(準備中)/積立不足が出たら(準備中) |
| DB 運用と責任 | DBの資産運用(準備中)/DBの受託者責任(準備中) |
| DB 変更・移行・終了 | DBの規約変更(準備中)/DBの給付減額(準備中)/DBとDCの間の資産移換(準備中)/DBの終了と清算(準備中) |
| 退職給付会計 | 退職給付会計とは(準備中)/退職給付債務をかみ砕く(準備中)/年金資産と退職給付に係る負債(準備中)/退職給付費用の中身(準備中)/計算基礎(準備中)/人事データ(準備中)/簡便法(準備中)/仕訳と決算(準備中)/注記(準備中)/制度を変えると会計はどうなる(準備中) |
| 年金税制 | 退職給付の税制は3段階(準備中)/退職所得控除(準備中)/掛金の税務と社会保険料(準備中) |
| その他の制度 | 退職一時金制度と退職金規程(準備中)/中退共(準備中)/特定退職金共済(特退共)(準備中)/特定業種退職金共済(準備中)/退職一時金からDCへ(準備中)/中退共とDCの組み合わせ(準備中) |