企業型DC(企業型確定拠出年金)には、会社と従業員のほかに「運営管理機関」「資産管理機関」といった聞き慣れない機関が登場します。書類や案内の差出人がどこなのか、何かあったときにどこへ問い合わせればよいのかは、この役割分担が分かると整理できます。この記事では、企業型DCの登場人物とそれぞれの役割を、図と早見表でまとめます。
この記事で分かること
- 企業型DCに登場する機関と、それぞれの役割
- 運営管理業務は本来「事業主の仕事」であり、それを運営管理機関に委託しているという構造
- 運営管理機関の2つの仕事(運用関連業務・記録関連業務)と、資産管理機関がお金を守る仕組み
- 単独型と総合型の違い
- 困ったときに「誰に何を聞けばよいか」
1. 企業型DCの登場人物 ―全体像
最初に全体像を見ておきましょう。企業型DCには、主に次の登場人物がいます。

| 登場人物 | ひとことで言うと |
|---|---|
| 事業主(会社) | 制度を実施する責任者。規約をつくり、掛金を拠出する |
| 加入者(従業員) | 自分の口座のお金を、どの商品で運用するか指図する人 |
| 運用関連運営管理機関 | 運用商品のメニューを選んで示し、商品の情報を提供する機関 |
| 記録関連運営管理機関(RK) | 一人ひとりの残高や取引の記録を管理する機関。「レコードキーパー」とも呼ぶ |
| 資産管理機関 | 掛金を預かり、会社の財産とは分けて管理する機関(信託銀行など) |
| 運用商品提供機関 | 預金・保険・投資信託などの商品を提供する金融機関 |
| 地方厚生局 | 厚生労働省の地方機関。規約の承認や、事業主からの報告書の受理・監督を行う |
ポイントは、お金の流れと情報の流れが分かれていることです。掛金というお金は、会社から資産管理機関へ直接払い込まれます。一方、「誰がいくら持っていて、どの商品を選んでいるか」という情報は、記録関連運営管理機関が管理します。資産管理機関は、記録関連運営管理機関から届く通知にもとづいてお金を動かします。
2. 事業主 ―企業型DCを実施する責任者
企業型DCを実施するのは、事業主(会社)です。企業型DCは「会社の制度」であり、法律上、制度を運営する責任は会社にあります。
ここで押さえておきたいのが、運営管理業務(制度の運営に必要な専門的な業務)も、本来は事業主の仕事だという点です。ただし、商品を選んだり、何千人分もの記録をシステムで管理したりすることを会社が自前で行うのは現実的ではありません。そこで法律は、事業主が運営管理業務の全部または一部を、国に登録した運営管理機関に委託できるようにしています(根拠はDC法7条)。実際には、大多数の会社が運営管理業務の全部を委託しています。

委託できるのは「運営管理業務」です。委託しても事業主の責任がなくなるわけではありません。図2の右側のように、次のような仕事は事業主に残ります。
- 規約をつくり、国の承認を受ける。 規約(企業型年金規約=制度のルールブック)は、従業員(厚生年金に加入している人)の過半数で組織する労働組合、そうした労働組合がなければ従業員の過半数代表者の同意を得て、地方厚生局の承認を受けます。
- 委託先と契約する。 運営管理機関とは運営管理業務の委託契約を、資産管理機関とは資産管理契約を結びます。資産管理契約は、結ぶことが法律で義務づけられています(根拠はDC法8条)。
- 掛金を納付し、情報を伝える。 掛金は規約で決めた日までに資産管理機関に納め、一人ひとりの掛金額を記録関連運営管理機関に通知します。従業員が加入者になったり資格を失ったりしたときも、記録関連運営管理機関に通知します(施行規則では原則5日以内)。
- 投資教育を行う。 加入者が自分で運用できるよう、資産運用の基礎的な資料の提供などを継続して行うよう努めなければなりません(根拠はDC法22条)。実施は運営管理機関に委託できます。
- 報告書を出す。 事業年度ごとに、加入者数や掛金などの状況をまとめた事業主報告書を、事業年度終了後3か月以内に厚生労働大臣へ提出します。提出は記録関連運営管理機関を通じて行い、実務上は記録関連運営管理機関が記録をもとに作成した内容を事業主が確認する形になります。
- 委託先を定期的に評価する。 少なくとも5年ごとに運営管理機関の業務を評価し、必要なら委託先の変更などを検討するよう努めなければなりません(根拠はDC法7条4項)。
さらに事業主には、加入者のために忠実に制度を運営する義務や、加入者の個人情報を必要な範囲でしか扱わない義務、特定の運用商品を勧めてはいけないといった行為準則があります。行為準則と運営管理機関の評価は、それぞれ別の記事で詳しく扱います。
3. 運営管理機関 ―「運用関連」と「記録関連」の2つの仕事
運営管理機関は、事業主から委託を受けて運営管理業務を行う機関です。運営管理業務は、法律上、次の2つに分かれます(根拠はDC法2条7項)。

運用関連業務 ―「どの商品で運用できるか」
運用関連業務は、加入者が選べる運用商品(法律上は「運用の方法」)を選んで示し、商品ごとの情報を提供する業務です。リスクとリターンの特徴や手数料など、加入者が商品を選ぶために必要な情報を届けます。この業務を行う運営管理機関を運用関連運営管理機関といいます。
記録関連業務 ―「誰がいくら持っているか」
記録関連業務は、次の3つからなります。
- 加入者ごとの氏名・住所・残高などの記録・保存・通知
- 加入者が行った運用の指図(どの商品にいくら充てるかの指示)を取りまとめて資産管理機関に通知すること
- 給付を受ける権利があるかどうかを確認して決める裁定
記録(レコード)を保存(キープ)する業務なのでレコードキーピングと呼ばれ、この業務を行う運営管理機関を記録関連運営管理機関、略してRK(レコードキーパー)といいます。一人の加入者について、運用の指図の通知と給付の裁定は、一つのRKが行うことになっています。窓口が複数あると加入者が混乱し、責任の所在もあいまいになるためです。
委託と再委託
事業主から委託を受けた運営管理機関は、その業務の一部を別の運営管理機関に再委託できます。例えば、会社との窓口になる運営管理機関が運用関連業務を行い、記録関連業務は記録管理を担う別の運営管理機関に再委託する、という形です。ただし、再委託を受けた機関がさらに別の機関に委託する再々委託はできません。
自社の委託先がどうなっているかは、規約に書かれています。委託先の名称と行う業務は規約の記載事項だからです。「会社が契約している運営管理機関」と「記録を管理している運営管理機関」が別の会社になっていることもあるので、一度規約で確認しておくと、送られてくる書類の差出人の意味が分かります。
運営管理機関は国の登録を受けた法人
運営管理機関の業務は、加入者の老後資産に直結します。そのため、運営管理機関になれるのは主務大臣(厚生労働大臣・内閣総理大臣)の登録を受けた法人だけです。登録を受けている運営管理機関の多くは、銀行・信託銀行・生命保険会社・損害保険会社・証券会社などの金融機関です。厚生労働省のウェブサイトには登録業者の一覧が公表されています。
運営管理機関は事業主から委託を受けて業務を行います。その費用(手数料)は会社が負担する場合も加入者が負担する場合もあり、負担の仕方は規約で定めます。誰が費用を負担するかにかかわらず、運営管理機関は法律上、加入者のために忠実に業務を行う義務を負っています。特定の商品を加入者に勧めることは原則として禁止されています。
4. 資産管理機関 ―掛金を預かり、会社の財産と分けて守る
資産管理機関は、会社が払い込んだ掛金を預かって管理する機関です。代表的なのは信託銀行で、ほかに生命保険会社、損害保険会社、生命共済を行う全国規模の農業協同組合連合会も資産管理機関になることができます(根拠はDC法8条)。

資産管理機関の仕事は、大きく3つです。
- 会社からの掛金や、他の制度から移ってきたお金(移換金)を受け入れる
- RKから届いた運用の指図の通知だけにもとづいて、運用商品を売買する
- RKの裁定にもとづいて、加入者に給付を支払う
会社が倒産しても、加入者の資産は守られる
資産管理機関に預けたお金は、加入者のための財産として会社の財産とは分けて管理されます。信託契約の場合、利益を受ける人(受益者)は加入者と決められており、預けたお金は原則として会社に戻りません。そのため、会社が倒産しても、会社の借金の返済に充てられることはありません。
退職一時金は、会社が退職時に社内のお金から払うため、会社の経営が傾けば約束どおり払われないおそれがあります。企業型DCは、掛金を払った時点で社外に切り離されるので、この点で従業員の受給権が守られやすい仕組みになっています(運用による増減や手数料の負担はあります)。
5. 運用商品提供機関 ―商品の「契約者」は誰か
加入者が選ぶ預金・保険・投資信託などの商品は、銀行や保険会社、投資信託の運用会社などの運用商品提供機関が提供しています。
ここで意外に思われるのが、商品を買う契約をしているのは加入者本人ではなく、資産管理機関だという点です。加入者は商品を「選んで指図する」だけで、実際の売買は資産管理機関が行います。そのため加入者は、商品提供機関の直接の顧客ではありません。
その代わり、加入者が商品を選ぶのに必要な情報は、運用関連運営管理機関が提供することになっています。商品の内容について加入者から質問を受けたときは、商品提供機関ではなく、運営管理機関の案内や窓口を紹介するのが基本です。
6. 行政 ―地方厚生局
企業型DCの規約を承認するのは厚生労働大臣ですが、その権限は地方厚生局(厚生労働省の地方機関)に委任されています。会社の主たる事務所の所在地を管轄する地方厚生局に、規約の承認申請や変更の申請・届出を行います。事業主報告書の提出先も厚生労働大臣です。行政は必要があれば事業主に報告を求めたり立入検査をしたりでき、法令違反があれば是正を命じ、最終的には規約の承認を取り消すこともできます。
申請書類の作成を運営管理機関に相談・依頼することはできますが、申請する主体はあくまで事業主です。
なお、運営管理機関は厚生労働省と金融庁(財務局)の両方から監督を受けます。また、退職した人が資産を移す手続きをしないまま一定期間が過ぎると、資産は国民年金基金連合会に自動的に移されます(自動移換)。退職者の資産の扱いは別の記事で扱います。
7. 単独型と総合型
企業型DCには、1社(またはグループ会社)で1つの規約をつくる単独型と、資本関係のない複数の会社が1つの規約に参加する総合型があります。

出典:厚生労働省 第38回社会保障審議会企業年金・個人年金部会 資料1「DC制度・その他」(2024年12月2日。2023年中に提出された業務報告書等をもとにした推計値)
実は「総合型」は法令上の用語ではありません。複数の事業主が1つの企業型年金を実施する場合には、代表となる事業主(代表事業主)が承認申請などをまとめて行うという仕組みがあり、これを使ったプランが一般に「総合型」と呼ばれています。運営管理機関などが用意したプランに中小企業が参加する形が中心で、厚生労働省の推計(2023年中に提出された業務報告書等をもとにしたもの)では、約160規約・約2万7千事業所・加入者約89万人の規模があります。
総合型は、規約づくりや申請の手間を抑えて導入できるのが利点です。一方で、運用商品などはあらかじめ用意されたものを使うため、自社で選べる幅は限られる場合があります。そして大事なのは、総合型に参加していても、事業主としての責務は各社に残ることです。投資教育、運営管理機関の評価、加入者の資格や掛金の通知などは、参加している会社それぞれの仕事です。
8. 誰に何を聞けばよいか ―早見表
最後に、よくある問い合わせを「どこに聞けばよいか」で整理します。実際の窓口の名前や連絡先は、運営管理機関から届いている事務マニュアル等(名称は運営管理機関によって異なります)や契約書で確認してください。
| 聞きたいこと・困りごと | 問い合わせ先 | 補足 |
|---|---|---|
| 自社の掛金の額、加入者の範囲、制度のルール | 自社(規約・退職金規程) | ルールを決めるのは事業主。規約で確認する |
| 加入者の入社・退社、住所変更などの届け方 | 記録関連運営管理機関(RK) | 事業主からRKへ通知する。方法は事務マニュアル等で確認 |
| 掛金の納付方法・納付日 | 運営管理機関・資産管理機関 | 掛金は資産管理機関へ、掛金額の明細はRKへ |
| 加入者の残高、ログイン、運用商品の変更の方法 | 運営管理機関の加入者向け窓口 | 加入者本人が問い合わせる。運営管理機関は、原則として本人の同意なく個人の残高などを会社に提供できない |
| 運用商品の内容・手数料 | 運用関連運営管理機関 | 商品をラインアップから外すときは、原則としてその商品で運用している加入者等の3分の2以上の同意を得る手続きが必要 |
| 給付の請求、退職者の資産の移し方 | 記録関連運営管理機関(RK) | 裁定はRK、支払いは資産管理機関 |
| 投資教育の実施 | 運営管理機関(委託している場合) | 実施の責任は事業主 |
| 規約の変更、事業主報告書 | 運営管理機関に相談 → 地方厚生局へ | 申請・提出の主体は事業主 |
| 運営管理機関の変更を検討したい | 自社で検討(労使で協議) | 規約変更(労使合意のうえ地方厚生局へ届出)が必要。定期的な評価の結果として検討する |
9. 実務上の注意点
▶ 押さえておきたいこと
- 委託しても責任は会社に残る。 運営管理機関が窓口として多くの事務を行っていても、制度を実施する責任は事業主にあります。
- 規約と契約書で「誰が何をするか」を確認する。 委託先の運営管理機関と行う業務、資産管理機関は規約に書かれています。
- 通知の期限を守る。 資格の取得・喪失などのRKへの通知には期限があります。遅れると掛金の納付や加入者の運用に影響します。
- 加入者の個人情報は必要な範囲だけ。 事業主は、加入者の個人情報を業務に必要な範囲でしか保管・使用できません。運営管理機関も、本人の同意なく一人ひとりの残高や資産配分を会社に提供することはできません(法令にもとづく場合や、退職者への手続きの案内など制度の運営に必要な限られた場合を除きます。個人が特定されない統計データは提供できます)。
- 特定の商品を勧めない。 自社株や関係会社の商品を含め、事業主が加入者に特定の運用商品を勧めることは禁止されています。
まとめ
- 企業型DCを実施するのは事業主。運営管理業務も本来は事業主の仕事で、それを国に登録した運営管理機関に委託している。
- 運営管理機関の仕事は、運用商品を選んで示す「運用関連業務」と、一人ひとりの記録を管理する「記録関連業務(レコードキーピング)」の2つ。
- 資産管理機関は掛金を預かり、会社の財産と分けて管理する。RKの通知にもとづいて商品を売買し、給付を支払う。商品の契約者は資産管理機関。
- 規約の承認や事業主報告書は地方厚生局(厚生労働大臣)が相手。申請・提出の主体は事業主。
- 総合型は複数の会社が1つの規約に参加する通称。参加していても、事業主の責務は各社に残る。
出典・参考
- e-Gov法令検索「確定拠出年金法」― 2条7項(運営管理業務)、7条(運営管理業務の委託・定期評価)、8条(資産管理契約)、21条(掛金の納付)、22条(事業主の責務)、25条(運用の指図)、43条・44条(行為準則)、50条(報告書)
- e-Gov法令検索「確定拠出年金法施行令」― 7条(運営管理業務の委託の条件)
- e-Gov法令検索「確定拠出年金法施行規則」― 8条(資産管理契約の要件)、11条(事業主が行うRKへの通知)、27条(事業主報告書)
- 厚生労働省「確定拠出年金制度」― 法令解釈通知、確定拠出年金Q&A(再々委託の不可など)、運営管理機関登録業者一覧
- 厚生労働省 第38回社会保障審議会企業年金・個人年金部会 資料1「DC制度・その他」(2024年12月2日)― いわゆる「総合型DC」の規模(推測値)
- DC Insider「確定拠出年金 法令」
本記事は制度の概要を分かりやすく説明することを目的としており、個別の制度の取扱いは各社の規約・規程や、運営管理機関・専門家にご確認ください。
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