企業型DCの基礎#企業型DC#退職給付制度入門

勤続3年未満で退職したら ―事業主返還の仕組み

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企業型DC(企業型確定拠出年金)では、会社が拠出した掛金は、払い込んだ時点で従業員一人ひとりの口座に入り、原則としてその人のものになります。ただし一つだけ例外があります。勤続3年未満で退職した人については、規約で定めておけば、会社が拠出した掛金に相当する部分を会社に返してもらうことができます。これを事業主返還といいます。この記事では、事業主返還の条件、返還される額の上限、返還できない場合、実際にお金が戻るまでの流れを、図表で整理します。

この記事で分かること

  • 事業主返還とは何か、なぜ「勤続3年」なのか
  • 「勤続3年」の数え方(DCの加入期間ではなく勤続期間。育休等も含める)
  • 返還される額の上限と、返還の対象にならないもの(運用益・本人掛金・持ち込み資産)
  • 勤続3年未満でも返還を求められない場合
  • お金が会社に戻るタイミングと、会社として準備・説明しておくこと

1. 事業主返還とは ―勤続3年未満の退職者に限った例外

企業型DCでは、会社が払い込んだ掛金(事業主掛金)は、加入者ごとの口座に区分して管理されます。この口座の残高を法律では個人別管理資産(加入者一人ひとりについて区分して記録・管理されている資産)と呼びます。お金を預かる信託銀行などの資産管理機関との契約でも、預かった資産は原則として会社に返さないことが条件になっています。つまり企業型DCでは、掛金は「払った時点で本人のもの」になるのが原則です。

その例外が事業主返還です。加入者が資格を失った日に、その会社で使用された期間(勤続期間)が3年未満であれば、その人の残高のうち会社が拠出した掛金に相当する部分の全部または一部を、会社に返還させることができます(根拠はDC法3条3項10号)。

ポイントは、規約に定めた場合に限ってできる、という点です。規約(企業型DCのルールブック。労使で合意し、厚生労働大臣の承認を受けたもの)に返還の定めがなければ、勤続3年未満で退職した人がいても、会社に戻るお金はありません。自社の規約に返還の定めがあるかどうかは、まず確認しておきたい事項です。

図1 事業主返還の仕組み。勤続3年未満で退職した人の口座のうち、会社が拠出した掛金に相当する部分が会社に返還され、残りは本人の移換先へ移る
図1 事業主返還の仕組み ―勤続3年未満で退職した人の残高の一部が会社に戻る

退職一時金制度では、勤続年数が短い人の自己都合退職金をゼロとしている例が見られます。事業主返還は、こうした考え方をDCでも一定の範囲で取り入れられるようにしたもの、と理解すると分かりやすいでしょう。一方で、DCは退職一時金やDB(確定給付企業年金)と違い、勤続3年以上になれば会社は一切取り戻せません。この点はあとで詳しく見ます。

2. 「勤続3年」の数え方 ―DCに入った日ではなく、働き始めた日から

返還できるかどうかの基準は、勤続期間が3年未満かどうかです。DCに加入していた期間や、掛金を拠出していた期間が3年未満かどうかではありません。厚生労働省のQ&Aでも、「勤続期間が3年未満を指す(使用された期間が3年未満のこと)」と示されています。

図2 勤続3年の数え方。2022年4月入社、2025年4月DC導入、2026年3月退職の人は、DC加入は約1年でも勤続は約4年なので返還できない
図2 「勤続3年」の数え方 ―DCに入った日ではなく、会社で働き始めた日から

図2の例のように、企業型DCを導入してまだ1年しかたっていない会社でも、導入前から勤めていて勤続3年以上になっている人については、返還を求めることはできません。制度導入の直後は、「DCに入ってから日が浅いから返還の対象になる」と誤解しやすいので注意が必要です。

勤続期間の数え方については、次の点が示されています。

  • 育児休業・介護休業などの休職期間も含める(規約の承認基準)。休業中に掛金を止めていた期間があっても、勤続期間からは除きません。
  • パートや契約社員から正社員になった人のように、切れ目なく勤務している場合は、当初の入社日から数えます。
  • 60歳以降に継続再雇用された人が、再雇用後に退職して返還の対象になるかを判定するときは、勤続期間には再雇用前の期間も含めます。一方、返還の対象になる資産は、再雇用後に拠出された掛金の部分だけです(厚生労働省Q&A)。

判定するのは、加入者の資格を失った日の時点です。入社日の記録(特に、雇用形態の変更や転籍があった人の記録)が正確に残っているかどうかが、返還の判断に直結します。

3. 返還される額の上限 ―会社が拠出した掛金の累計まで

返還されるのは、会社が拠出した事業主掛金の額(累計額)が上限です(根拠はDC法施行令2条)。運用で増えた分は本人のものとして残ります。反対に、運用がうまくいかず残高が事業主掛金の累計を下回っているときは、その残高が上限になります。この場合、会社は拠出した掛金を全額は回収できません。

図3 返還される額の上限。会社の掛金累計30万円の例で、残高33万円なら会社へ30万円・本人へ3万円、残高27万円なら会社へ27万円・本人へ0円、本人掛金10万円があり残高44万円なら会社へ30万円・本人へ14万円
図3 返還される額の上限 ―会社が拠出した掛金の累計まで

図3は、会社の掛金が累計30万円のときの計算例です(数値は説明のための仮定です)。

  • A 運用で増えた場合:残高33万円のうち、会社に返るのは掛金累計の30万円まで。増えた3万円は本人の資産として移換先へ移ります。
  • B 運用で減った場合:残高が27万円なら、会社に返るのは27万円まで。本人に残る額はゼロになります。減った分を会社が本人に請求することはできません。
  • C 本人も掛金を出していた場合:後で説明するとおり、残高のうち会社の掛金を原資とする部分だけを計算して返還額を決めます。

返還の対象にならないもの

次のものは、勤続3年未満であっても返還の対象になりません。

返還の対象にならないもの 理由・ポイント
運用で増えた分 返還の上限は事業主掛金の累計額。運用益は本人のもの。
本人が出した掛金(マッチング拠出)と、その運用益 本人の掛金は会社の掛金ではないため。按分の方法は規約に明記する(次項)。
退職一時金・DB・前の勤務先の企業型DCなどから持ち込んだ資産 制度移行や転職で移ってきた資産は、事業主掛金ではないため。厚生労働省のQ&Aでも、退職一時金等からの移換金について返還を求めることは「不可」とされている。

マッチング拠出がある場合 ―本人への返還額がゼロになってはいけない

本人が自分の掛金を上乗せするマッチング拠出を行っている人の口座では、会社の掛金と本人の掛金が合わさって運用されています。そこで、残高のうち「会社の掛金を原資とする部分」を計算で切り分け、その範囲で返還額を決めます。切り分け方(按分の方法)は法令では決まっておらず、労使で協議して規約に明記することになっています。例えば、掛金の累計額の比率で残高を按分する方法が考えられます。図3のCは、会社30万円:本人10万円=3:1で按分した例です。残高44万円のうち会社の掛金を原資とする部分は33万円になりますが、返還は会社の掛金の累計額(30万円)が上限なので、会社へ30万円、本人に14万円が残ります。

ただし、本人が掛金を出しているにもかかわらず、本人に残る額がゼロになるような定め方は認められません。規約の承認基準でも、按分方法を明記すること、本人への返還額が零とならないようにすることが求められています。

4. 返還を求められる場合・求められない場合

勤続3年未満であっても、資格を失った理由によっては返還を求めることができません。法令で返還の対象から除かれているのは、次のような場合です(根拠はDC法施行令2条)。

図4 返還を求められる場合・求められない場合。勤続3年未満で退職した場合は規約に定めがあれば求められる。死亡、障害給付金の受給権、実施の終了、70歳到達、規約変更や規約で定めた年齢到達、老齢給付金の受給権取得の場合は求められない
図4 返還を求められる場合・求められない場合
返還を求められない場合(勤続3年未満でも) かみ砕くと
死亡したことにより資格を失った 在職中に亡くなった人の残高は、遺族に死亡一時金として支払われる。
資格を失った日に、障害給付金を受ける権利がある 障害の状態になって給付を受けられる人からは取り戻さない。
勤めている事業所が、企業型DCの実施事業所でなくなった 会社が企業型DCをやめた、事業所が規約から外れた、など会社側の事情によるもの。
70歳になり、厚生年金の被保険者でなくなった 年齢による資格喪失で、本人の意思によらないもの。
規約の変更や、規約で定めた年齢への到達により資格を失った 例えば加入資格を「63歳まで」と定めている規約で、63歳到達で資格を失った場合。
老齢給付金を受ける権利を得た 加入者のまま老齢給付金の受給権者となったことにより、資格を失った場合。加入者でいる間は老齢給付金を請求できないので、請求しないまま75歳に達して支給が始まるときに限られ、ごくまれ。請求できる年齢・期間の条件を満たしただけでは当たらない。

これらに共通するのは、本人の意思によらずに資格を失う場合が中心だということです。逆に、返還を求められる典型は、勤続3年未満で退職したことによって資格を失った場合です。なお、年齢で加入資格を区切っている規約でも、その年齢に達する前に退職して資格を失った場合は、返還を求めることができるとされています(規約に定めて、返還を求めないこともできます)。

勤続3年以上なら、懲戒解雇でも返還は求められない

退職一時金やDBでは、懲戒解雇など本人の重い責任による退職の場合に、退職金規程や規約に定めて不支給や減額とすることができます(DBでは法令が定める範囲内に限られます)。しかし企業型DCでは、勤続3年以上の人については、懲戒解雇であっても返還を求めることはできません。厚生労働省のQ&Aは、その理由を「DCは一旦個人に出されたものは、個人の持分として運用される年金制度であり、企業における懲戒とは別のもの」と説明しています。退職金規程の懲戒解雇条項と同じ感覚でDCを扱わないよう、就業規則や退職金規程との関係を整理しておくことが大切です。

規約の定め方 ―「全部または一部」を労使で決める

返還させるのは事業主掛金に相当する部分の「全部」でも「一部」でもよく、どう定めるかは規約で決めます。その内容は、他の規約事項と同様に、特定の人について不当に差別的なものであってはなりません(根拠はDC法4条・施行令6条)。返還の定めを新たに設ける、あるいは変更するには、労働組合(従業員の過半数で組織するもの)または従業員の過半数代表者の同意を得て、規約変更の承認を受ける必要があります。

5. お金が会社に戻るタイミング ―本人の資産が移されるとき

返還は、退職した日にすぐ行われるわけではありません。退職した人の残高が、転職先の企業型DCやiDeCo(個人型確定拠出年金)などへ移される(移換される)ときに、移す資産から返還額を差し引く形で行われます。差し引いた返還額は、資産管理機関から金銭で会社に返還されます(根拠はDC法84条)。

図5 返還の流れ。STEP1 退職し会社が運営管理機関に資格喪失を届け出る、STEP2 60歳前に退職した人は移換の手続き(資格を失った月の翌月から6か月以内にしなければ自動移換)、STEP3 資産管理機関が返還額を差し引き金銭で会社へ、残りを移換先へ
図5 返還の流れ ―お金が会社に戻るのは、本人の資産が移されるとき

60歳前に退職した人は、資格を失った月の翌月から6か月以内に、自分で移換の手続きをすることになっています。手続きをしないまま6か月が過ぎると、残高は国民年金基金連合会に自動的に移されます(自動移換)。返還は、通常この本人の移換手続きのとき、または自動移換のときに行われます。脱退一時金を受け取る場合や、60歳以上で退職して元の企業型DCに残る場合など、移換以外の扱いになるときの返還の時期は、運営管理機関に確認しておきましょう。そのため、退職から返還金の入金までに数か月かかることもあります。移換の手続きや自動移換については、別の記事で詳しく扱います。

返還が実行されるには、退職者の資格喪失を運営管理機関(記録を担当するレコードキーパー)に届け出る際に、返還の対象になるかどうか(勤続期間など)を、運営管理機関の定める方法で正しく伝えることが前提になります。届け出の方法や必要なデータは運営管理機関ごとに異なるので、事務マニュアル等で確認しておきましょう。また、返還の状況は、会社が毎年運営管理機関を通じて提出する事業主報告書の記載事項にもなっています。

6. 実務上の注意点 ―会社としてやること

事業主返還は、会社にとっては「掛金が戻ってくる」仕組みですが、従業員にとっては「自分の口座から残高が減る」仕組みです。トラブルを避けるために、次の点を押さえておきましょう。

場面 会社としてやること・確認すること
規約の確認 返還の定めがあるか、全部か一部か、マッチング拠出がある場合の按分方法。就業規則・退職金規程の説明と食い違っていないか。
入社時・制度導入時 勤続3年未満で退職すると会社の掛金相当分が返還されることを、制度の説明の中で伝えておく。
勤続期間の管理 当初の入社日、雇用形態の変更、転籍、休職・育休の記録を正確に残す。休業期間も勤続期間に含める。
退職前〜退職時 退職が決まったら、退職日までに本人へ、移換の手続きが必要なこと(資格を失う見込みの人に退職日までに移換について説明することは、会社の義務です)と、会社の掛金相当分が差し引かれることを説明する。運営管理機関へ資格喪失を届け出る際に、返還の対象かどうかを正しく伝える。
入金後 返還金の入金を確認する。会計・税務上の処理は、顧問税理士や会計士に確認する。

ここに注意

  • 届け出の漏れ:資格喪失の届け出で返還の対象であることを伝え漏らすと、返還されないまま資産が移換されてしまうおそれがあります。
  • 勤続期間の誤り:DCの加入日から数えたり、休業期間を除いたりすると、本来返還できない人から返還を受けてしまうおそれがあります。
  • 本人への説明不足:移換先で受け取った額が思ったより少ない、という問い合わせにつながります。退職前に行う移換の案内に、返還があることを明記しておくと安心です。
  • 雇用期間が当初から3年未満と決まっている人:DCの加入対象とするかどうかや、代わりの措置の扱いについては、厚生労働省のQ&Aに取扱いが示されています。加入者の範囲を決める際に、運営管理機関と相談しましょう。

まとめ

  • 企業型DCの掛金は払い込んだ時点で本人のものになるのが原則。例外として、規約に定めれば、勤続3年未満で資格を失った人から会社の掛金相当分の全部または一部を返還させられる(事業主返還)。
  • 「勤続3年」はDCの加入期間ではなく、会社に使用された期間。育児休業・介護休業などの期間も含め、切れ目なく勤務していれば当初の入社日から数える。
  • 返還の上限は事業主掛金の累計額。運用で減っていれば残高が上限。運用益、本人のマッチング掛金、他制度から持ち込んだ資産は返還されない。
  • 死亡、障害給付金の受給権、実施の終了、70歳到達、規約変更や規約で定めた年齢への到達、老齢給付金の受給権取得による資格喪失は、勤続3年未満でも返還の対象外。勤続3年以上なら懲戒解雇でも返還は求められない。
  • 返還は、通常、本人の資産が移換される(または自動移換される)ときに、資産管理機関から金銭で会社に行われる。資格喪失の届け出で返還の対象であることを正しく伝えることが前提。
  • 入社時・退職前の説明、勤続期間の正確な管理、返還金の会計・税務処理の確認が、会社として押さえておくべき点。

出典・参考

  • 確定拠出年金法(e-Gov法令検索)― 規約で定める事項(3条3項10号:返還資産額の算定方法)、規約の承認(4条)、資格喪失の時期(11条)、事業主への資産の返還(84条)
  • 確定拠出年金法施行令(e-Gov法令検索)― 事業主への返還に係る事業主掛金(2条)、規約の承認の基準(6条)
  • 確定拠出年金法施行規則(e-Gov法令検索)― 規約で定めた年齢到達による資格喪失(3条の2)、事業主報告書(27条)、資産管理契約の要件(8条)
  • 厚生労働省「確定拠出年金制度」― 法令解釈通知「確定拠出年金制度について」(事業主返還で加入者への返還額が零となる定めは不当に差別的)、「企業型年金規約の承認基準等について」(返還資産額の算定方法、按分方法の明記、勤続期間に育児休業等を含むこと)、確定拠出年金Q&A(勤続期間の意味、懲戒解雇、移換金、継続再雇用の扱い)
  • DC Insider「確定拠出年金 法令」― 法・政令・省令・通知の原文

本記事は制度の概要を分かりやすく説明することを目的としており、個別の制度の取扱いは各社の規約・規程や、運営管理機関・専門家にご確認ください。

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