企業型DC(企業型確定拠出年金)では、会社が毎月、従業員一人ひとりの口座に掛金を拠出します。では、従業員が育児休業や介護休業、病気による休職に入り、給与が出ない期間はどうなるのでしょうか。この記事では、会社の掛金を一時的に止める「拠出中断」について、止められる条件、止められない場合、中断中に何が続くのか、復職時の事務までを図表で整理します。
この記事で分かること
- 拠出中断とは何か。掛金を止めても「加入者」のままであること
- 拠出中断が認められる条件と、認められない場合
- 中断中も運用と手数料は続くこと。本人の上乗せ掛金(マッチング拠出)の扱い
- 休職・休業から復職までの事務の流れと、中断した期間の掛金を後から拠出できないこと
- そもそも中断の規定を設けるかどうかの考え方
1. 拠出中断とは ―会社の掛金だけを一時的に止めること
企業型DCの掛金は、会社(事業主)が年1回以上、定期的に拠出するものと法律で決まっています(根拠はDC法19条)。多くの会社は毎月掛金を拠出しており、規約に定めた額を「今月は0円にする」ということは、原則としてできません。
ただし例外があります。育児休業や休職などで給与が支給されていない期間について、あらかじめ規約に定めておけば、その期間の会社の掛金を止めることができます。これを拠出中断と呼びます。育児休業・介護休業中の中断が典型的な例です。
大事なのは、拠出中断は退職でも脱退でもないということです。本人は企業型DCの「加入者(掛金を拠出してもらいながら運用する人)」のままで、口座(個人別管理資産=本人ごとに区分して管理されている残高)もそのまま残ります。止まるのは、会社が新たに拠出する掛金だけです。

なお、掛金が0円になる場面は拠出中断だけではありません。例えば、DB(確定給付企業年金)を併用している会社で、DB側の掛金相当額が大きく企業型DCの掛金を拠出できる枠が残らない人も、掛金0円のまま加入者の資格が続きます。この仕組みは別の記事(DBと併用する会社の拠出限度額)で扱います。
2. 拠出中断が認められる条件
拠出中断について、法律そのものに細かい定めがあるわけではありません。国(厚生労働省)の確定拠出年金Q&Aで、次のような考え方が示されています。
- 掛金は原則として、事業主が年1回以上、定期的に拠出するもの
- ただし、就業規則等に定める休業など合理的な理由により給与が支給されておらず、かつ、労使合意のうえ規約に明確に規定されているのであれば、中断も可能
これを実務の言葉に置き換えると、次の3つをすべて満たすことが条件になります。
- 就業規則などに定めた休業・休職であること。育児・介護休業規程や就業規則の休職の条項など、社内規程に根拠がある休みです。
- その期間、給与が支給されないこと。「働いていないので給与も出ていない」という合理的な理由があることが前提です。
- 労使合意のうえ、年金規約に明確に定めていること。「どの休業の期間は会社の掛金を拠出しない」を規約に書きます。掛金の出し方は規約の重要な記載事項なので、後から加える場合は、厚生年金に加入している従業員の過半数で組織する労働組合(ない場合は、その過半数を代表する者)の同意を得て規約を変更し、地方厚生局の承認を受ける必要があります。

根拠:確定拠出年金法第19条(事業主は年1回以上定期的に掛金を拠出)、確定拠出年金Q&A No.71(中断が認められる基準)
中断できない場合
裏返すと、次のような場合は会社の掛金を止められません。
- 規約に中断の定めがない場合。無給の休職であっても、会社の掛金は規約どおり拠出し続けます。
- 給与が支給されている休業の場合。有給の休暇はもちろん、一部でも給与が出ている期間は「給与が支給されていない」とは言えません。なお、雇用保険の育児休業給付金のように会社以外から支給されるお金は、会社の給与ではありません。休業中の支給が給与に当たるか迷うときは、運営管理機関に確認しましょう。
- 就業規則などに根拠のない休みの場合。
- 会社側の都合で止める場合。「資金繰りが苦しいので今月は掛金を拠出しない」といったことは、拠出中断の考え方とはまったく別のもので、認められません。
産前産後休業や短期の休職は注意が必要
国のQ&Aに明記されているわけではありませんが、運営管理機関(企業型DCの運営を受託する金融機関)の実務では、次のような休みは中断の対象外として扱われている例があります。
- 産前産後休業(労働基準法で定められた、出産前後の休業)
- 1か月に満たない短期間の休職
- 会社都合による休職
育児休業と産前産後休業は続けて取ることが多いため、「産休から育休までまとめて中断」と考えてしまいがちです。規約に中断の定めを置く、あるいは見直すときは、どの休みを中断の対象にできるのか、運営管理機関や地方厚生局に事前に確認しておくと安心です。
3. 中断中に「続くこと」と「止まること」
拠出中断の間も本人は加入者のままです。そのため、止まるのは会社の掛金だけで、それ以外の多くはそのまま続きます。

続くこと
- 運用:口座の残高は、選んでいる商品に応じて市場で増えたり減ったりします。本人は商品の入替え(スイッチング)もできます。
- 口座の手数料:加入者1人分の運営管理や資産管理の手数料はかかり続けます。その手数料を会社と本人のどちらが負担するかは、規約で決まっています。中断中の扱いも含めて、自社の規約を確認しておきましょう。
- 加入者期間:老齢給付金を何歳から受け取れるかは、加入者だった期間などを合計した「通算加入者等期間」で決まります。国のQ&Aでは、休職中の拠出停止期間も通算加入者等期間に算入されるとされています。掛金が出ているかどうかではなく、加入者の資格があるかどうかで数えるためです。
- 勤続期間:勤続3年未満で退職した人から会社の掛金を返してもらう「事業主返還」を規約に定めている場合、3年の判定に使う勤続期間には、育児休業・介護休業などの休職期間も含めることが、規約の承認基準で求められています。
止まること ―本人の上乗せ掛金(マッチング拠出)の扱い
会社の掛金に本人が上乗せする「マッチング拠出」を実施している会社では、本人の掛金の扱いにも注意が必要です。
- 毎月拠出の規約の場合、会社の掛金が0円の月に、本人の掛金だけを出すことはできません(国のQ&A)。拠出中断の月は、本人の掛金も止まります。
- 年単位拠出(1年の中で掛金を拠出する月や額を決める方式)の規約の場合は、会社の掛金が中断されていても、本人の掛金を出すことは可能です。ただし、会社の掛金が出ない期間の分、拠出限度額が積み上がって後で使えるわけではありません。
一方、中断規定のない会社で無給の休職になった場合は、会社の掛金は拠出し続けます。本人の掛金は給与から天引きする原資がなくなりますが、本人の申出で止めることができ、再開もできます(この停止・再開は、拠出単位期間につき1回までとされる本人掛金の額の変更の回数には数えません)。会社が本人の掛金を立て替える義務はありません。立て替える場合は、その掛金を拠出する月のうちに本人から立替分を受け取る必要があるとされています。
4. 休職・休業から復職までの事務
拠出中断を規約に定めている会社では、休職・休業のたびに次のような事務が発生します。届出の方法(書類かデータ送信か)や締切日は、運営管理機関ごとに決まっています。

- 休職・休業の申出を受ける:開始日、終了予定日、その期間の給与の扱いを確定します。
- 規約の中断事由に当たるか確認する:規約に定めた休業か、その期間は無給か、期間についての要件はあるか。判断に迷うときは運営管理機関に確認します。
- 中断を届け出る:記録を管理する運営管理機関(レコードキーパー)に中断の開始を届け出て、毎月の掛金の納付データからも外します。
- 中断中:本人には「会社の掛金は止まるが、運用は続く」「残高はWebや通知で確認できる」ことを伝えておくと、復職後の問い合わせを防げます。休業中に給与が出るような変更があれば、中断を続けられるか確認します。
- 復職したら再開を届け出る:復職日を確定し、規約で定めた月から会社の掛金を再開します。
ここで注意したいのは、中断した期間の掛金を、復職後にさかのぼってまとめて拠出することはできないという点です。中断期間の会社の掛金は規約上0円であり、その分の枠を後から使うこともできません。つまり、中断した期間の分だけ、本人の将来の受取額のもとになる掛金の累計は少なくなります。
復職せずにそのまま退職した場合は、通常の退職と同じく加入者の資格喪失の手続きを行います。中断していた期間も、加入者だった期間として扱われます。
届出漏れに注意
中断の届出を忘れると、休業中も掛金が出続けます。逆に、再開の届出を忘れると、復職しているのに掛金が0円のままになります。掛金を誤って少なく拠出した場合の差額は、あらかじめ規約に定めておけば後の月に上乗せして拠出できることもありますが、拠出限度額などの条件があり、いつでも元どおりにできるわけではありません。どう訂正できるかは誤りの内容や規約によって異なるため、気づいたら早めに運営管理機関に相談しましょう。人事の休職管理と、DCの届出を連動させる仕組み(休職発令のチェックリストにDCの届出を入れる等)を作っておくと安全です。
5. 中断規定を設けるかどうかの判断
拠出中断は「できる」ものであって、「しなければならない」ものではありません。中断規定を設けず、無給の休業中も会社の掛金を拠出し続けることも、制度上は可能です。どちらを選ぶかは会社の判断です。

| 中断規定を設ける | 中断規定を設けない | |
|---|---|---|
| 無給の休業中の会社の掛金 | 拠出しない | 拠出し続ける |
| 考え方 | 働いていない期間は退職給付も積まない | 育児・介護中も資産形成を途切れさせない |
| 会社の負担 | 休業期間の掛金はかからない | 休業期間の掛金も会社の負担 |
| 事務 | 休職ごとに中断・再開の届出が必要 | 休職ごとの中断・再開の届出は不要(マッチング拠出の停止・再開の手続きは別) |
| 従業員への説明 | その期間は掛金が積み上がらない(運用による増減は続く)ことの説明が要る | 特になし(マッチング拠出の扱いは説明が要る) |
判断のよりどころになるのは、他の退職給付制度との整合です。例えば、退職一時金の規程で「休職期間は勤続年数に算入しない」としている会社であれば、企業型DCでも無給の休業中は掛金を止める、という整理がしやすいでしょう。逆に、退職一時金やDBで休職期間も通常どおり扱っている会社が、DCだけ掛金を止めると、制度間で扱いが食い違うことになります。
また、育児休業・介護休業に関する規程は法改正にあわせて見直されることがあります。規約が就業規則や育児・介護休業規程を引用して中断事由を定めている場合、法令の改正に伴う規約の変更や、実質的な内容の変更を伴わない規程の統合による規約の変更は、承認は不要で、届出で足りる「軽微な変更」とされています。一方、中断の対象となる休業の種類を広げる・狭めるといった変更は、掛金の出し方そのものの変更になるため、労使合意と承認の手続きが必要になります。規約変更の区分は別の記事(規約変更の手続き)で扱います。
6. 実務上の注意点
- まず自社の規約を確認する:中断規定があるか、あるならどの休業が対象か、再開はいつからか。規約本文だけでなく、別表・別紙に書かれていることもあります。
- 就業規則・育児介護休業規程と突き合わせる:規約が引用している規程の条項と、現在の規程の内容がずれていないか確認します。
- 「無給」の判定を給与担当と共有する:休業中に一部でも給与が出る設計になっていないか。手当の支給などで条件が変わることがあります。
- 本人への説明を定型化する:休業に入る前に、掛金が止まること、運用は続くこと、マッチング拠出の扱い、再開時期を伝えます。口座の手数料を加入者が負担する規約になっている場合は、休業中も手数料が残高から引かれることもあわせて伝えます。
- 迷ったら運営管理機関に聞く:個別の休業が中断の対象になるか、届出の締切は、契約している運営管理機関が最も確実な相談先です。
まとめ
- 拠出中断は、無給の休業・休職の間、会社の掛金だけを一時的に止めること。本人は加入者のままで、退職・脱退ではない。
- 中断できるのは、就業規則等に定めた休業で給与が支給されておらず、労使合意のうえ規約に明確に定めている場合。規約に定めがなければ、無給でも掛金は拠出し続ける。
- 産前産後休業、1か月未満の短期の休職、会社都合の休職は、実務上中断の対象外とされている例がある。事前に運営管理機関・地方厚生局に確認する。
- 中断中も運用と手数料は続き、加入者期間・事業主返還の勤続期間にも数えられる。毎月拠出の規約では本人の上乗せ掛金も止まる。
- 中断した期間の掛金は、復職後にさかのぼって拠出できない。中断・再開の届出漏れを防ぐ仕組みが大切。
- 中断規定を設けるかは会社の判断。退職一時金・DBなど他の制度の休職期間の扱いとそろえて考える。
出典・参考
- 確定拠出年金法(e-Gov法令検索)― 第3条(規約の記載事項)、第5条(規約の変更の承認)、第19条(事業主掛金は年1回以上定期的に拠出)、第33条(通算加入者等期間)
- 確定拠出年金法施行令(e-Gov法令検索)、確定拠出年金法施行規則(e-Gov法令検索)― 第5条(規約の軽微な変更)
- 厚生労働省「確定拠出年金Q&A」No.70-3・70-4(中断事由を定める規程の変更と規約変更)、No.71(拠出中断が認められる基準)、No.68-1(掛金の算定誤りによる差額の上乗せ)、No.71-10・71-11・71-11-1(中断・休職時の加入者掛金)、No.151(拠出停止期間と通算加入者等期間)
- 厚生労働省「企業型年金規約の承認基準等について」別紙1(事業主返還の勤続期間に育児休業・介護休業等の休職期間を含めること)
- 上記の通知・Q&Aは厚生労働省「確定拠出年金制度」ページに掲載。条文・通知の全文は DC Insider 法令ページ でも参照できます。
本記事は制度の概要を分かりやすく説明することを目的としており、個別の制度の取扱いは各社の規約・規程や、運営管理機関・専門家にご確認ください。
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